Amazed

Chapter 15: 私が選んだ未来

最後の人物に会う日は、雨だった。

私は父と一緒に、小さな喫茶店へ向かった。

待っていたのは。

年配の女性だった。

彼女は私を見ると、涙を浮かべた。

「咲希ちゃん」

その呼び方に。

胸が締め付けられた。

「あなたは?」

女性は微笑んだ。

「私は、あなたのお母さんの親友だった人です」

名前は、田村玲子さん。

母が亡くなる前。

最後に連絡を取った人物だった。

玲子さんは古い箱を出した。

「あなたのお母さんから預かっていたものです」

私は箱を開けた。

中には。

小さなアルバム。

そして。

母の声が入った録音。

震える手で再生する。

『咲希へ』

母の声。

初めてだった。

写真ではなく。

本当の声。

涙が止まらなかった。

『もしこの声を聞いているなら、あなたはもう大人になったんだね』

私は目を閉じた。

『ごめんね』

『あなたに寂しい思いをさせたかもしれない』

『でも、あなたが生まれた瞬間、私は世界で一番幸せだった』

父も静かに聞いていた。

録音は続く。

『あなたの父親について、いつか知る日が来るかもしれない』

『でも忘れないで』

『あなたを最初に抱いた人』

『あなたを毎日守った人』

『あなたを愛した人』

『その全部が、あなたの家族です』

私は父を見た。

父は涙を拭いていた。

母の声。

祖母の想い。

父の時間。

全部が今の私を作っていた。

玲子さんが言った。

「あなたのお母さんは、最後まであなたの未来を心配していた」

「黒田のことも?」

「はい」

「どうして止められなかったの?」

玲子さんは悲しそうに答えた。

「彼女は、あなたを守るために一人で戦ったから」

その言葉が胸に刺さった。

母は。

私を守るために。

最後まで戦っていた。

数ヶ月後。

大学の入学式の日。

私は新しい制服に袖を通した。

あの日。

四万円しかなかった口座。

絶望した朝。

全部が遠い昔のようだった。

父は写真を撮った。

「笑って」

「恥ずかしい」

「いいから」

私は笑った。

本当に。

心から。

大学生活が始まった。

もちろん。

傷は簡単には消えなかった。

悦子との関係も。

すぐには戻らなかった。

でも。

時間は少しずつ変えていった。

悦子は正式に謝罪し、返済を続けていた。

結衣も働き始めた。

以前のような家族ではない。

でも。

偽りの関係ではなくなった。

ある日。

私は祖母の墓を訪れた。

花を置く。

「おばあちゃん」

風が吹いた。

「全部知ったよ」

少し笑う。

「でも、まだ分からないこともある」

私は空を見る。

「でも大丈夫」

「私、自分で選ぶから」

祖母が言ったような気がした。

『それでいい』

帰ろうとした時。

父が後ろから声をかけた。

「咲希」

振り返る。

「帰るか」

私は頷いた。

父と並んで歩く。

血の繋がり。

秘密。

過去。

全部を知った後でも。

隣にいる人がいる。

それだけで十分だった。

数年後。

私は大学を卒業した。

卒業式の日。

父から一枚の封筒を渡された。

中には。

祖母の最後のメッセージ。

『咲希へ』

『あなたが自分の足で歩いた日、私は一番誇りに思います』

『お金は人生を変える道具です』

『でも、人を救うのは愛です』

私は空を見上げた。

あの日。

継母は私の未来を奪ったと思った。

でも。

本当に奪えなかったものがあった。

私の価値。

私の夢。

そして。

私を愛してくれた人たちとの絆。

六百万円を失った日。

私は絶望した。

でも。

その日、同時に知った。

本当に大切な財産は。

口座の数字ではなく。

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どんな真実を知っても。

自分を見失わない強さだった。

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