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Chapter 10: 消された最後のメッセージ

病院関係者からの証言を聞いた瞬間、私は過去へ引き戻された。

沙織が亡くなった日の記憶。

白い病室。

消毒液の匂い。

握った手の温度が、少しずつ消えていく感覚。

私はあの日、沙織が何か言おうとしていたことを覚えている。

でも、彼女は途中で力尽きた。

私はそれを、運命だと思っていた。

しかし違った。

誰かが、その最後の言葉を奪った可能性がある。

「美智子は何を持ち去ったんですか?」

私は弁護士に尋ねた。

電話の向こうで、彼は資料を確認していた。

「病院の記録によると、小さな封筒だったそうです」

「封筒?」

「はい。沙織さんが亡くなる前日に看護師へ預けたものです」

私は息を飲んだ。

「内容は?」

「分かりません。ただ、その封筒には莉子さんの名前が書かれていたそうです」

隣にいた莉子が、その言葉を聞いて顔を上げた。

「私の名前……?」

私はすぐに彼女の手を握った。

「大丈夫だ」

莉子は小さくうなずいた。

でも、もう彼女の人生には大人たちの秘密が多すぎた。

父親のこと。

母親のこと。

そして、自分を傷つけていた人のこと。

その日の午後、警察から連絡があった。

美智子が取り調べに応じることになった。

私は由香さん、亮介、そして莉子と一緒に警察署へ向かった。

待合室で、美智子と向かい合った。

以前なら、私は彼女の疲れた顔を見て心配していた。

今は違った。

そこにいるのは、私が知らなかった人間だった。

「なぜここまでした?」

私は聞いた。

美智子は笑わなかった。

「あなたには分からない」

「何が?」

「私がどれだけ努力したか」

私は首を振った。

「努力?」

「この家に入るために、どれだけ我慢したと思う?」

「だから莉子を傷つけたのか?」

美智子の目が鋭くなった。

「莉子は何でも持っていた」

私は眉をひそめた。

「何を?」

「あなたの愛」

その言葉を聞いて、私は胸が痛んだ。

美智子は続けた。

「あなたはいつも莉子を見ていた」

「それは父親だからだ」

「でも私の子供たちは?」

彼女の声が震えた。

「健太も美咲も、あなたの本当の子じゃないから」

私は黙った。

「私は思ったの」

美智子は言った。

「莉子がいなくなれば、あなたはやっと私たちを見るって」

その瞬間、莉子が目を伏せた。

私はすぐに言った。

「莉子の存在は、誰かの愛を奪うものじゃない」

美智子は答えなかった。

警察官が部屋に入ってきた。

「美智子さん、確認したいことがあります」

机の上に写真が置かれた。

病院の監視カメラ。

そこには、若い美智子が病室から出てくる姿。

手には封筒。

「これはあなたですか?」

美智子は黙った。

「答えてください」

長い沈黙。

そして彼女は小さく言った。

「……そうよ」

莉子が息を飲んだ。

私は目を閉じた。

「なぜ?」

美智子は下を向いた。

「沙織は全部知っていたから」

「何を?」

「私と亮介のこと」

部屋の空気が凍った。

亮介が立ち上がった。

「違う」

美智子は笑った。

「違わない」

彼女は続けた。

「私は昔から、あなたたち二人に利用されていた」

亮介の顔が変わった。

「美智子……」

「あなたは沙織を選んだ」

彼女の声には長年の憎しみがあった。

しかし私は気づいた。

憎しみは理由にはならない。

罪を正当化するものではない。

「それで沙織を苦しめたのか?」

私は聞いた。

美智子は答えなかった。

その時、警察官が別の資料を出した。

「もう一つ確認します」

紙には病院の記録。

「沙織さんの亡くなる前日、あなたが病室で言った言葉があります」

美智子の顔が変わった。

「録音があります」

私は驚いた。

録音?

警察官が再生ボタンを押す。

雑音。

そして――

美智子の声。

「あなたがいなくなれば、全部私のものになる」

莉子が口元を押さえた。

私は拳を握った。

録音は続く。

「でも安心して。莉子には何も言わないから」

「彼女は私が育てる」

そこで音声が途切れた。

部屋には沈黙だけが残った。

美智子は目を閉じた。

そして小さく呟いた。

「私は……間違えた」

しかし、その時。

警察官の電話が鳴った。

彼は少し話した後、私たちを見る。

「新しい情報です」

「何ですか?」

警察官は答えた。

「美智子さんが隠していた封筒が見つかりました」

私は息を止めた。

「場所は?」

警察官は言った。

「彼女の元の自宅です」

そして続けた。

「中には、沙織さんが最後に書いた手紙があります」

私は立ち上がった。

しかし警察官の次の言葉で、全員が凍りついた。

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「ただし……」

「手紙には、あなたの名前が書かれていました」

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