Chapter 6: 父親としての最後の約束
裁判所からの通知を見た瞬間、家の中の空気が変わった。
今まで私は、美智子が莉子を嫌っていると思っていた。
しかし違った。
彼女は計画していた。
莉子を家から追い出すだけではなく、私からも奪おうとしていた。
「どうして……」
莉子の声が震えた。
私はすぐに書類を隠した。
しかし遅かった。
彼女は見ていた。
「パパ」
「莉子」
「私、また迷惑かけた?」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥で何かが壊れた。
「違う」
私は莉子の前に座った。
「絶対に違う」
「でも……美智子さんが怒る理由って、私がいるからでしょ?」
私は首を振った。
「お前は何も悪くない」
莉子は泣いた。
「じゃあ、なんで大人は私をいらないみたいにするの?」
その質問に、私は答えられなかった。
その夜、私は眠れなかった。
リビングで一人、過去の写真を見ていた。
莉子が生まれた日。
初めて歩いた日。
初めて「パパ」と呼んだ日。
私は決めた。
もう誰にも、この子の居場所を奪わせない。
翌日、弁護士に相談した。
書類を一つずつ確認していく。
偽造された契約書。
不自然な送金。
そして、葵が撮影した大量の動画。
弁護士は静かに言った。
「これだけ証拠があれば、状況は変わります」
「莉子を守れますか?」
「できます」
その言葉を聞いた瞬間、初めて少しだけ息ができた。
しかし、家に戻ると異変が起きていた。
莉子の部屋のドアが開いていた。
「莉子?」
返事がない。
私は急いで部屋へ入った。
机の上に一枚の紙が置かれていた。
「パパへ」
心臓が止まりそうになった。
紙を開く。
「パパ、ごめんなさい」
「私がいるから、みんなが苦しんでいる気がする」
「だから少しだけ離れます」
私は血の気が引いた。
「莉子……」
すぐに家中を探した。
庭。
近所。
学校への道。
どこにもいない。
その時、スマホが鳴った。
知らない番号。
私はすぐに出た。
「もしもし!」
しばらく沈黙。
そして、聞き覚えのある声。
「パパ……」
莉子だった。
「莉子!どこにいる?」
「ごめんなさい」
「謝らなくていい。今どこだ?」
莉子は泣いていた。
「ママのお墓」
私は息を飲んだ。
「動かないで。すぐ行く」
電話を切った瞬間、玄関に美智子が立っていた。
「探しているの?」
私は彼女を見る。
「莉子はどこへ行った」
美智子は静かに笑った。
「あなたのせいよ」
その言葉で、私は拳を握った。
「何?」
「あなたがあの子を甘やかしたから」
「違う」
「違わない」
美智子は続けた。
「でも、もう遅いわ」
「何が?」
彼女はバッグから一枚の紙を取り出した。
「莉子自身が書いた証言」
私は紙を見た。
そこには莉子の字。
しかし内容を読んだ瞬間、私は違和感を覚えた。
「これは……」
美智子は微笑んだ。
「これで裁判でも勝てる」
私は紙を握りしめた。
だが、その瞬間、葵が階段から降りてきた。
「嘘」
美智子の顔が変わった。
葵は震えながら言った。
「それ、莉子ちゃんの字じゃない」
沈黙。
「私、毎日莉子ちゃんの字を見てるから分かる」
葵はスマホを取り出した。
「それに……」
彼女は画面を見せた。
そこには、美智子が莉子の机で何かを書いている映像が映っていた。
美智子の顔から笑顔が消えた。
そしてその時、玄関の外から車の止まる音がした。
私は振り向いた。
そこに立っていたのは、警察官だった。
「美智子さんですね」
彼は封筒を差し出した。
「あなたに関する新しい証拠が提出されました」
美智子の表情が初めて崩れた。
そして警察官は続けた。
「さらに、あなたが数年前に隠した事件についても、再調査が始まっています」
私は息を止めた。
数年前の事件。
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それは――
莉子の母親が亡くなった日のことだった。