Chapter 9: 明かされた血のつながり
封筒を開けるまで、私は何度も迷った。
この中には、私の人生を変える何かが入っている。
分かっていた。
それでも、逃げることはできなかった。
莉子が隣にいる。
彼女も真実を知る権利がある。
私はゆっくり封筒を開いた。
中には一枚の手紙。
そして、古い写真。
写真には沙織。
幼い莉子。
そして――亮介。
私は写真を見て、言葉を失った。
「説明しろ」
私の声は低かった。
亮介は目を伏せた。
「俺は……」
莉子が震えた。
「パパ」
私はすぐに彼女を見る。
「大丈夫だ」
でも、自分でも分かっていた。
大丈夫ではなかった。
亮介は静かに話し始めた。
「莉子が生まれる前、沙織と俺は一度だけ会った」
「一度だけ?」
「昔の友人として」
彼は続けた。
「でも、その時に分かった」
私は拳を握った。
「何が」
亮介は莉子を見る。
「俺が莉子の実の父親かもしれないって」
部屋の空気が止まった。
莉子の顔から血の気が引いた。
「違う……」
私は呟いた。
「そんな簡単な話じゃない」
亮介はうなずいた。
「分かっている」
「ならなぜ今まで黙っていた」
「沙織が望んだからだ」
「何?」
亮介は手紙を差し出した。
「読め」
私は手紙を開いた。
沙織の文字だった。
「亮介へ」
そこから始まっていた。
「もしこの手紙を渡す日が来たなら、私はもう真実を隠せない状態になっているのでしょう」
私は読み進める。
「でも、莉子に必要なのは血のつながりではなく、愛してくれる人です」
涙が落ちた。
「彼は良い父親です」
沙織の言葉。
「だから、莉子を混乱させることはしたくなかった」
私は手紙を握った。
「じゃあ、なぜ今?」
亮介が答えた。
「美智子がこの事実を利用しようとしているからだ」
その瞬間、全てが繋がった。
美智子は莉子を追い出したかった。
財産だけではない。
私と莉子の関係を壊すために。
「彼女は何をするつもりだった?」
亮介は苦しそうに言った。
「裁判で、莉子の出生を公表するつもりだった」
莉子が小さく震えた。
「私を……恥ずかしい存在にするため?」
私はすぐに抱きしめた。
「違う」
「でも……」
「お前は何も変わらない」
私は言った。
「誰の血が流れていても、俺がお前を育ててきた時間は消えない」
莉子は泣いた。
「本当に?」
「本当だ」
その夜、私たちは三人で話した。
私。
莉子。
そして亮介。
簡単ではなかった。
でも、初めて嘘のない会話だった。
翌日、弁護士から連絡が来た。
「新しい証拠が見つかりました」
「何ですか?」
「美智子さんが以前から莉子さんの親権を得るために準備していた記録です」
私は聞いた。
「他には?」
弁護士は少し沈黙した。
「あります」
「何ですか」
「沙織さんの死亡について、新たな証言が出ました」
私の心臓が跳ねた。
「誰の証言ですか?」
弁護士は答えた。
「病院関係者です」
「その人が言うには――」
電話越しの声が震えた。
「沙織さんは亡くなる前日、美智子さんと口論していたそうです」
私は息を止めた。
さらに弁護士は続けた。
「そして、その後、美智子さんが病室を出る時に持っていたものがありました」
「何を?」
長い沈黙。
そして答え。
「沙織さんが莉子さんに残した、最後の記録です」
私は窓の外を見た。
今まで隠されていた真実が、ようやく姿を現し始めていた。
しかし同時に、私は理解した。
美智子はただ莉子を追い出したかっただけではない。
彼女は、沙織が残した最後のメッセージを消そうとしていた。
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そして、その中には――
私たちがまだ知らない、美智子の最大の秘密が残されていた。