Chapter 11: 母の墓前で
夜。
僕たちは家を出た。
本当なら怖かった。
知らない場所へ行くこと。
大人たちの秘密に巻き込まれること。
でも。
僕は行かなければならなかった。
父を探すために。
母が残した答えを知るために。
墓地は静かだった。
月明かりだけが道を照らしていた。
葵ちゃんは僕の隣を歩いていた。
「寒くない?」
僕が聞くと、彼女は首を振った。
「大丈夫」
でも、手は震えていた。
僕は気づかないふりをした。
彼女も僕と同じくらい怖いはずだった。
「葵ちゃん」
「ん?」
「どうして僕を助けるの?」
彼女は少し考えた。
「だって」
小さく笑う。
「翔太くんは、ずっと私を守ってくれたから」
「僕が?」
「うん」
葵ちゃんは言った。
「お母さんが怒った時も、私を責めなかった」
僕は何も言えなかった。
墓前に着く。
母の名前。
美咲。
僕は初めて、母の前に立った。
「母さん」
声が震えた。
「僕……」
言葉が出ない。
会ったこともない母。
でも。
ずっと守ってくれていた。
「父さんを見つける」
そう言った瞬間。
墓石の横で小さな音がした。
カチッ。
僕は振り向いた。
そこには小さな金属の箱があった。
父が隠していたもの。
箱を開ける。
中には古い携帯電話。
そして一枚の手紙。
『翔太へ』
また父の字だった。
『ここまで来たなら、お前は本当に強くなった』
涙が出そうになった。
『この手紙を読む頃、俺は近くにいるかもしれない』
「近く?」
僕は周囲を見る。
誰もいない。
『でも、すぐには会えない』
胸が痛んだ。
なぜ?
なぜ会ってくれないの?
手紙は続く。
『理由は、お前を守るためだ』
『村上は、人の弱さを利用する』
『俺が生きていると知れば、必ずお前を狙う』
僕は拳を握った。
『翔太、お願いがある』
『もし俺を探すなら、一つだけ覚えてほしい』
『敵は、外だけにいるとは限らない』
その言葉に不安が広がる。
誰かが裏切っている?
その時。
後ろから声がした。
「翔太」
僕は振り返った。
そこにいたのは。
恵美さんだった。
「どうしてここに?」
彼女は泣いていた。
「あなたを一人にできなかった」
僕は警戒した。
「父さんは誰も信用するなって」
恵美さんは苦しそうに笑った。
「そうね」
「じゃあ、なぜ来たの?」
彼女はポケットから小さな鍵を出した。
「これを渡すため」
「何の鍵?」
「あなたのお父さんが最後に私へ預けたもの」
僕は黙った。
「恵美さん」
彼女は顔を上げる。
「本当に父さんを裏切ったの?」
長い沈黙。
そして。
「一度だけ」
彼女は答えた。
僕の胸が痛む。
「何をしたの?」
「あなたのお父さんを黒田に伝えた」
葵ちゃんが息を呑んだ。
「お母さん……」
恵美さんは涙を流した。
「でも、理由があった」
「どんな?」
彼女は鍵を見る。
「葵を守るためだった」
その瞬間。
遠くで車のライトが光った。
恵美さんの顔色が変わる。
「来た」
「誰が?」
彼女は震える声で言った。
「村上」
車が止まる。
ドアが開く。
そして。
男が歩いてくる。
「やっと見つけた」
その声を聞いた瞬間。
僕は凍った。
なぜなら。
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その声は。
父の声だった。