Chapter 14: 家族の本当の意味
数週間後。
家の中は静かだった。
でも、以前の静けさとは違った。
前は。
誰も本当のことを言えない静けさだった。
今は。
安心できる静けさだった。
父は毎朝、僕を起こしに来る。
「翔太、遅刻するぞ」
昔と同じ声。
でも、今は少し違う。
父は必ず僕の顔を見る。
「眠れたか?」
「うん」
「嫌な夢は見なかったか?」
僕は笑う。
「大丈夫」
父は安心したように笑う。
あの日から。
僕たちは少しずつ変わった。
恵美さんも。
最初は僕と目を合わせられなかった。
でもある日。
夕食の時。
彼女は僕の前に皿を置いた。
唐揚げだった。
「翔太」
僕は顔を上げた。
「何?」
「……食べて」
小さな声だった。
僕は少し驚いた。
「僕の分?」
恵美さんは頷いた。
「あなたの好きなもの」
昔なら、嬉しいだけだったかもしれない。
でも今は違った。
僕は聞いた。
「どうして急に?」
恵美さんは少し悲しそうに笑った。
「取り戻したいから」
「何を?」
「あなたが失った時間」
僕は黙った。
失った時間は戻らない。
でも。
これから作ることはできる。
「ありがとう」
僕が言うと、恵美さんは泣きそうになった。
隣では葵ちゃんが笑っていた。
「翔太くん」
「何?」
「今日から本当にお兄ちゃん?」
僕は笑った。
「今まで違ったの?」
葵ちゃんは首を振る。
「違わない」
その言葉が嬉しかった。
父はそれを見て笑った。
「二人とも」
「何?」
「約束してほしい」
父は真剣な顔になる。
「もう一人で抱え込まないこと」
僕は頷いた。
父も。
恵美さんも。
みんな秘密を抱えて苦しんでいた。
守ろうとして。
でも。
秘密は時に、人を傷つける。
その日の夜。
僕は母の写真の前に座った。
「母さん」
写真の中の母は笑っている。
「僕、ちゃんと家族になれたよ」
風が窓から入る。
その時。
父が部屋に入ってきた。
「翔太」
「何?」
父は古い封筒を持っていた。
「これを渡す時が来た」
「何?」
父は僕の前に置いた。
「お母さんからの手紙」
僕は驚いた。
「まだあったの?」
父は頷いた。
「でも、読む時を待っていた」
封筒には僕の名前。
小さな字。
母の字だった。
僕は震える手で開いた。
中には短い文章。
『翔太へ』
『あなたがこの手紙を読む頃、私はそばにいないかもしれない』
涙が出た。
『でも、あなたには必ず愛してくれる人がいる』
『その人を信じて』
最後の一行。
僕は何度も読み返した。
『あなたのお父さんは、世界で一番優しい人です』
僕は父を見た。
父は笑っていた。
でも、目には涙があった。
その時。
僕は理解した。
家族とは。
最初から完璧なものじゃない。
間違えることもある。
傷つけることもある。
でも。
戻ろうとする気持ちがあれば。
もう一度作り直せる。
しかし。
手紙の封筒の奥に。
僕は小さな紙を見つけた。
母が最後に書いた、別のメッセージ。
そこには一つの住所があった。
そして。
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一言だけ。
『翔太には、まだ会うべき人がいる』