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Chapter 5: 地下に隠された箱

翌朝。

僕は学校へ行かなかった。

行けなかった。

父が残した言葉が頭から離れなかった。

『地下収納を確認しろ』

僕の家には地下なんてないと思っていた。

でも、父の古い書斎には一つだけ、いつも鍵がかかっている扉があった。

子供の頃から気になっていた。

父に聞いたこともある。

「この奥は何?」

父は笑って言った。

「大人の秘密基地だ」

あの時は冗談だと思っていた。

でも違った。

本当に秘密があった。

「翔太くん」

葵ちゃんが隣に立った。

「怖くない?」

僕は正直に答えた。

「怖い」

「私も」

葵ちゃんは小さな手で僕の服を掴んだ。

「でも一緒にいる」

その言葉だけで少し勇気が出た。

書斎へ向かうと、恵美さんが前に立っていた。

「行かないで」

僕は止まった。

「どうして?」

「あなたが知ったら……」

「何を?」

彼女は俯いた。

「私を許せなくなる」

その言葉は予想していなかった。

僕は初めて聞いた。

彼女自身が、自分のしたことを認めるような言葉を。

「恵美さん」

彼女は顔を上げた。

「父さんに何をしたの?」

涙が流れた。

でも答えなかった。

代わりに言った。

「私は……あなたのお父さんを愛していた」

僕は驚いた。

「だったら、なんで?」

彼女は震える声で言った。

「怖かったの」

「何が?」

「全部失うことが」

その答えは、僕には理解できなかった。

でも、許せる理由にもならなかった。

僕は鍵のかかった扉を見る。

スーツの男が後ろから言った。

「開ける方法は分かっている」

僕は振り返った。

「あなたは誰なんですか」

男は少し迷った。

「俺の名前は高橋」

「父さんの友達?」

「元同僚だ」

「嘘」

僕は言った。

「父さんの友達なら、なんで僕から端末を取ろうとしたの?」

高橋さんは黙った。

その沈黙が答えだった。

僕は父の古い机を調べた。

すると、引き出しの奥から小さな鍵が出てきた。

葵ちゃんが驚く。

「最初からここにあったの?」

僕は首を振った。

「父さんが隠してたんだ」

鍵には小さな文字が刻まれていた。

『S』

僕の名前の頭文字。

僕は鍵を握った。

そして扉を開けた。

中は暗かった。

埃の匂い。

古い紙の匂い。

小さな地下室だった。

壁にはたくさんの写真が貼られていた。

僕は一歩入って、息を止めた。

写真のほとんどに父が写っていた。

でも、隣にいる人物は――

恵美さんだった。

付き合っていた頃の写真。

結婚する前の写真。

そして最後の一枚。

父と恵美さん。

その間に、小さな子供。

葵ちゃん。

「……」

僕は混乱した。

恵美さんは葵ちゃんの母親。

それは知っている。

でも、写真の裏を見ると、文字があった。

『2015年、真実を確認』

僕はさらに箱を開けた。

中には書類が入っていた。

出生証明書。

古い手紙。

そして一枚のDNA検査結果。

僕の手が震えた。

名前を見る。

検査対象。

翔太。

もう一人。

父。

結果。

「親子関係……」

僕は続きを読めなかった。

なぜなら。

その下に、別の紙が重なっていたから。

そこには、信じられない名前が書かれていた。

『母:美咲』

僕の亡くなった母。

そしてその横に。

『父:不明』

僕は息を呑んだ。

父が僕を息子として育てた理由。

それは愛だけではなかったのかもしれない。

その時。

後ろから恵美さんの声がした。

「翔太……それを見る前に話したかった」

僕は振り返った。

「何を?」

彼女は泣いていた。

「あなたのお父さんは、あなたの本当の父親じゃない」

世界が止まった。

葵ちゃんが叫ぶ。

「嘘!」

でも恵美さんは首を振った。

「ごめんなさい」

彼女は僕を見る。

「でも、あなたのお父さんが最後まで守ろうとした秘密は――」

その瞬間。

地下室の電気が突然消えた。

真っ暗な中で、誰かが箱を奪った。

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そして耳元で低い声がした。

「その秘密は、絶対に知られてはいけない」

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