Chapter 15: 選ばれた家族
半年後。
僕はその住所の前に立っていた。
父と葵ちゃんも一緒だった。
「本当に行くのか?」
父が聞いた。
僕は頷いた。
「うん」
母の最後のメッセージ。
そこに書かれていた住所。
僕には、まだ知らない家族がいる。
そう思っていた。
でも。
もう怖くなかった。
昔の僕なら。
「また何か失うかもしれない」
そう思っていた。
でも今は違う。
僕には帰る場所がある。
玄関のチャイムを押す。
しばらくして。
ドアが開いた。
そこにいたのは、年配の女性だった。
彼女は僕を見るなり、涙を流した。
「翔太……」
僕は驚いた。
「僕を知っているんですか?」
女性は頷いた。
「あなたのお母さんの母親よ」
僕のおばあちゃん。
会ったことのない家族。
彼女は僕の手を握った。
「ずっと探していた」
僕は何も言えなかった。
でも。
不思議と怖くなかった。
父が後ろにいる。
葵ちゃんが隣にいる。
僕は一人じゃない。
家の中には、母の写真が飾られていた。
子供の頃の母。
笑顔の母。
「お母さんはね」
祖母が言った。
「最後まであなたのことを心配していた」
僕は写真を見る。
「僕も」
小さく呟いた。
「ずっと会いたかった」
その夜。
僕たちは初めて一緒に食卓を囲んだ。
昔の僕なら。
料理の量を気にしていた。
誰がどれを食べるか気にしていた。
でも。
今は違った。
葵ちゃんが僕の皿に唐揚げを置いた。
「翔太くん」
僕は笑った。
「また?」
「うん」
「ありがとう」
昔と同じやり取り。
でも。
今度は誰も怒鳴らなかった。
誰も奪わなかった。
父が笑う。
「葵、翔太にあげすぎるなよ」
「だってお兄ちゃんだから」
その言葉に、胸が温かくなった。
夜。
僕は空を見上げた。
母。
ありがとう。
父。
ありがとう。
そして。
あの日の小さな僕へ。
我慢していた七歳の僕へ。
言いたい。
お前は間違っていなかった。
愛されていた。
ただ。
気づくまで時間が必要だっただけだ。
翌朝。
父は僕に一つの箱を渡した。
「最後のものだ」
僕は開けた。
中には、あの黒い端末。
でも。
もう赤いランプは点滅していなかった。
代わりに新しいメッセージが残っていた。
『翔太へ』
父の声。
『もしここまで来たなら、お前はもう大丈夫だ』
僕は笑った。
『もうこの端末は必要ない』
『なぜなら、お前には本当の家族がいるからだ』
画面の最後。
一つの言葉。
『愛している』
僕は端末を閉じた。
あの日。
カップ麺だけを渡された少年は。
もういなかった。
僕は知った。
家族は、最初から与えられるものじゃない。
選び。
守り。
何度でも作るものだ。
そして僕は。
世界で一番大切なものを手に入れた。
May you like
血より強い絆。
本当の家族を。