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Chapter 9: 本当の父親

画面の中の母が、ゆっくり息を吐いた。

その表情は悲しそうだった。

でも、強かった。

『翔太』

母の声。

初めて聞く声。

それだけで胸がいっぱいになった。

『あなたがこの映像を見る頃、私はもう隣にいないでしょう』

僕は唇を噛んだ。

『でも、絶対に覚えていて』

母は微笑んだ。

『あなたは誰かに捨てられた子じゃない』

涙が落ちた。

『あなたは、私たちが命をかけて守った子です』

画面の横で、恵美さんが泣いていた。

葵ちゃんも静かに涙を流していた。

母は続ける。

『あなたの本当の父親は……』

一瞬、映像が乱れた。

全員が息を止める。

そして名前が出た。

『黒田』

僕は振り返った。

黒田の顔から笑顔が消えていた。

「嘘だ」

彼が呟いた。

母は続ける。

『でも、黒田さんはあなたを息子として認めなかった』

僕の頭が混乱する。

「僕の……?」

黒田は首を振った。

「違う」

「じゃあなぜ母さんはそんなことを?」

黒田は答えなかった。

映像の中の母は続けた。

『黒田は、自分の失敗を隠すために、私たちを追っていた』

『あなたが生まれた時、彼は私たちを脅した』

父が僕を守った理由。

ここに繋がっていた。

『でも、翔太のお父さんは違った』

母は笑った。

『彼は血の繋がりより、愛を選んだ』

僕の目から涙が溢れた。

父。

僕を育てた父。

僕に唐揚げを作ってくれた父。

運動会で一番大きな声で応援してくれた父。

その人こそ。

僕の本当の父だった。

黒田が突然叫んだ。

「止めろ!」

彼がパソコンへ近づいた。

でも高橋さんが前に立った。

「もう終わりだ」

黒田は睨む。

「お前も知っていたのか」

高橋さんは頷いた。

「全部な」

「なら、なぜ黙っていた?」

「翔太が小さすぎた」

高橋さんは僕を見る。

「君のお父さんは言った」

「翔太には、真実より先に愛を与えてほしい」

僕は拳を握った。

父らしいと思った。

いつだって僕を守っていた。

でも。

まだ一つ分からないことがあった。

「父さんはどこにいるの?」

部屋が静かになる。

誰も答えない。

その時。

母の映像の最後の部分が再生された。

『翔太』

母が真剣な顔になる。

『もしあなたがこの映像を見ているなら、お父さんはきっと最後の場所へ向かっています』

最後の場所。

『彼はあなたを守るため、自分自身を犠牲にしました』

僕は画面を見る。

『でも、一つだけ約束してください』

母は言った。

『憎しみで生きないで』

映像が終わった。

誰も話さなかった。

しばらくして。

葵ちゃんが僕の手を握った。

「翔太くん」

「……」

「お父さん、帰ってくるよ」

僕は頷けなかった。

怖かった。

期待して。

また失うのが。

その時。

外から車の音が聞こえた。

高橋さんが窓を見る。

そして顔色を変えた。

「来た」

「誰が?」

彼は答えなかった。

玄関のチャイムが鳴る。

一回。

二回。

そして。

低い声が響いた。

「翔太」

僕の全身が震えた。

忘れるはずがない声。

何度も聞いた声。

「父さん……?」

ドアの向こうから声がする。

「開けてくれ」

僕は走り出そうとした。

でも、高橋さんが腕を掴んだ。

「待て」

「なんで?」

彼は震える声で言った。

「その声……」

「本当にお父さんなのか確認しろ」

僕は玄関を見る。

父の声。

でも。

なぜか胸の奥で、小さな違和感があった。

そしてドアの向こうの人物が、最後に言った。

「翔太」

「お父さんだよ」

その瞬間。

端末が突然光った。

新しい警告。

『警告:声紋一致率 98%』

その下に、赤い文字が表示された。

『ただし、本人確認失敗』

僕は凍りついた。

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ドアの向こうにいるのは――

父ではない。

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