Amazed

Chapter 8: 母の残した記録

母の名前。

美咲。

その文字を見た瞬間、胸の奥が痛くなった。

僕は母の顔をほとんど覚えていない。

写真でしか知らない。

父が時々話してくれた。

「お前のお母さんは、すごく強い人だった」

そう言っていた。

でも。

なぜ今、その母の名前が秘密の鍵になるのか。

「説明して」

僕は写真を握った。

誰に言ったのか分からなかった。

高橋さん。

恵美さん。

あの男。

全員に向けてだった。

「母さんは何を隠していたの?」

沈黙。

最初に口を開いたのは恵美さんだった。

「美咲さんは……私の姉だった」

僕は固まった。

「……え?」

葵ちゃんも驚いた顔をした。

「お母さんのお姉さん?」

恵美さんは頷いた。

「そう」

僕は理解できなかった。

母と恵美さん。

二人が繋がっていたなんて。

「じゃあ、なんで今まで言わなかったの?」

恵美さんの目に涙が浮かぶ。

「言う資格がなかった」

「どうして?」

「私は……あなたのお母さんを裏切ったから」

その言葉に空気が重くなる。

高橋さんが静かに言った。

「美咲さんは、ある会社の不正を調べていた」

「会社?」

「お父さんが働いていた会社だ」

僕は父を思い出した。

いつも夜遅く帰ってきた。

疲れていても笑っていた。

「父さんは何をしていたの?」

高橋さんは答えた。

「真実を探していた」

その時。

あの男が笑った。

「まだそんな話を信じるんですか?」

僕は睨んだ。

「あなたは誰なの?」

男は少し間を置いた。

「黒田です」

「父さんと何の関係がある?」

黒田は答えた。

「私は、君のお父さんの元上司でした」

僕の背中が冷たくなる。

「じゃあ……」

「そう」

黒田は微笑む。

「君のお父さんが追っていた問題の中心にいた人物です」

高橋さんが怒鳴った。

「嘘をつくな!」

黒田は肩をすくめた。

「証拠は?」

その瞬間。

恵美さんが持っていた箱を開けた。

中から一枚のUSBメモリを取り出す。

「これがある」

黒田の表情が変わった。

「恵美」

「もう終わりよ」

彼女は震えながら言った。

「美咲さんを苦しめたことも」

「翔太を傷つけたことも」

「全部終わらせる」

僕は驚いた。

「恵美さん……」

彼女は僕を見る。

「ごめんなさい」

「私は、あなたのお父さんから頼まれていた」

「何を?」

「あなたを守ること」

僕は息を止めた。

「でも、なぜ僕に冷たくしたの?」

恵美さんは目を閉じた。

「黒田が監視していたから」

その言葉に全員が黙った。

「あなたに優しくすれば、疑われると思った」

「だから……」

「だから、あなたを遠ざけた」

僕は混乱した。

彼女のしたことは間違っていた。

でも、その理由を初めて知った。

葵ちゃんが泣きながら言った。

「でも翔太くん、ずっと悲しかったよ」

恵美さんは俯いた。

「分かってる」

「だから後悔してる」

黒田が突然笑った。

「くだらない」

彼は一歩近づく。

「家族ごっこで何が変わる?」

その瞬間。

USBメモリが光った。

高橋さんが言った。

「それを開けば全部終わる」

「何が入ってるの?」

僕が聞く。

恵美さんは答えた。

「あなたのお母さんが最後に残した映像」

僕の心臓が大きく鳴った。

母の声。

聞いたことのない母の声。

「見たい」

僕は言った。

「母さんに会いたい」

恵美さんがUSBを差し込んだ。

古いノートパソコンが起動する。

画面が暗い。

そして。

一人の女性が映った。

僕は息を止めた。

写真で見た顔。

でも、動いている。

笑っている。

母だった。

『翔太へ』

その瞬間。

涙が止まらなくなった。

母はカメラを見ていた。

『もしこの映像を見ているなら、あなたはもう大きくなったのね』

僕は画面に近づいた。

『まず伝えたいことがあります』

母の表情が変わった。

『あなたのお父さんは、あなたの本当のお父さんではありません』

僕の呼吸が止まる。

でも。

母は続けた。

『でも、あなたを一番愛してくれた人です』

その言葉の後。

May you like

母は信じられない秘密を話し始めた。

『翔太。あなたの本当の父親は――』

Related Stories

Other posts